家族のあり方について 〜映画「Shall we ダンス?」より〜
家族のあり方について、考えさせられる映画をご紹介します。
平成8年に公開された役所広司と草刈民代が主演の日本映画、「Shall we ダンス?」です。
非常にブームになっていたので、ご存知の方も多いかと思います。
あらすじ
まず映画のあらすじを簡単に紹介します。
平凡な家庭(妻、娘)を持ち、単調な毎日を送るサラリーマン杉山(役所広司)は、
ある日電車の中から、ビルの窓際にたたずむ美女を目にします。
杉山は彼女に会いたい気持ちを抑えられず、彼女のいる場所へ向かいます。
しかし、そこは杉山にはまったく縁のない「社交ダンス教室」でした。
家族にも、会社にも内緒で、ダンス教室に通い、
生き甲斐を見出して行くというストーリーです。
中高年の男女の人間模様や心理がよく伝わってくる作品です。
家族のあり方について
この映画に登場する家族のあり方について、私なりに分析してみました。
まず、この映画の中心となる家族の構成は、父、母、娘1人の核家族。
この家族の近況はというと、最近家を買い、そのローン返済のために母も働き出したということ。
そして、夫婦も結婚後、年月が経って娘もそろそろ手がかからなくなってきた時期であるということ。
発達段階でいえば第五段階の「子どもの出立ちと移行がおこる時期」であり、
「二者関係としての夫婦関係の再調整」(※家族サイクルより)が必要な時期であるといえます。
→家族ライフサイクルについて詳しく見る
家族それぞれの性質・役割
夫は会社に勤めており、課長というポストについています。そして毎日朝早くから夜遅くまで働きます。
妻は、普段は家庭で家事をこなしながら家をきりもりしています。
これは、日本の伝統的な考え方である「男は仕事、女は家事」といった夫婦の典型的なスタイルであるといえるでしょう。
では、この家族から読み取れるそれぞれの性質をみてみましょう。
夫は、非常に真面目で仕事をきちんとこなす規則正しい性格。不器用ながら、妻への優しさや気遣いもたまに見せます。
妻は、家庭的で包容力があり、夫をとても思いやり、かげながら支える献身的な主婦です。
妻はまた、自身も家庭内において家族を支える大きな役割を果たしているのにも関わらず、
毎日家族のために忙しく働く夫に「気がひける」と言い、夫に対して最善の気遣いもしています。
娘は年頃でしっかりしており、父、母、それぞれの役割をきちんと理解しているようです。
経済面はもちろんのこと、会社勤めの父がすべてを負担して家族生活を支えています。
ここから、父は「生活保持機能」の役割を果たしているといえます。
妻もまた家事をしながら夫を支え、不満一つこぼさず家庭を守りながら、
「精神的機能」の役割を果たしているといえるのではないでしょうか。
家族内交流理論の観点から
これを「家族内交流理論」の点から分析してみます。
まず家族の内部における力動関係を見てみると、やはり会社員として毎日仕事に行き、
経済的に家族の生活を支えている父が中心であるといえるでしょう。
次に家族の構成員(父、母、娘)間の交流に注目してみれば、夫、妻の毎日の会話は少なく、短い。
夫の帰宅後も事務的な会話ばかりが気になります。また夫婦の時間をもつことはほとんどありません。
同じく、父と娘の関係もさほど強くないように見受けられます。会話もほとんどありません。
娘は思春期なのだろうか、父とコミュニケーションをあえてとろうとしないし、
父も照れくさいのだろうか、娘と好意的に関わろうという姿は見られません。
しかしその反面、母と娘の関係は非常に良好で、食事の間に会話をしたり、相談もする仲である。
ここから家族内できちんと情緒交流がおこなわれているのはほぼ母と娘のみであると判断できます。
「交換理論」の点から分析すると、上にも書いたように、父は家族の生活を支えていること、
そして妻はその夫を精神面、家庭内の家事において満たしていることから、夫婦は「公正」な関係であるといえます。
そこから交換理論の主張する、『「公正」な関係が成り立っている場合は家族の関係は継続する』という様子も見てとれます。
夫と妻の変化
映画では、日常生活において夫は仕事→帰宅というワンパターンな生活からの解放と刺激を求め、
電車の窓からいつも眺めていた美しい女性がいるダンス教室に通い始めることになります。
しかし、少しためらいもあり、家族には秘密にしておきたい、という本心も感じとれます。
きっと家族に後ろめたい気持ちがあったのでしょう。
ここで私が気になったのは、夫にとって、
家庭が仕事のストレスや疲れを癒してくれる場ではなかったのかもしれないということです。
そこで外界で出会った女性やダンス教室に安らぎを求め始めたのではないでしょうか。
このダンス教室との出会いによって、夫の気持ちは一変します。
それと同時に夫をとりまく外の世界とのつながりも変化し、
家庭、仕事仲間以外に、ダンス教室の仲間という新たなつながりが加わりました。
妻は、敏感で夫の様子の変化に気になりはじめ、探偵に調査を依頼します。
妻は夫とは反対で家事中心の生活のため、ほとんど外界との接触はありませんでした。
だから、「夫があやしい、心配だ」と感じてもまわりの頼りになる友人、身近な相手に一言も相談することなく、
探偵に相談せざるをえなかったのではないかと思います。
妻のこの行動もまた、夫に対しては秘密でした。
夫、妻、ともにそれぞれのパートナーに正直に思いをぶつけたり話をもちかけることができないまま隠し事をしている。
そして「秘密」をもっている。家族間で秘密をもつことは必ずしも悪いことではありません。
しかし、この背景には夫婦間で、本音や自分の思いを伝えることに抵抗を感じたり、
言いたいのに言えないといったギクシャクした関係が生じているのではないでしょうか。
妻は決まって夫の帰宅が遅い水曜と土日は、夕食を用意して夫の帰りをだまって待っていました。
ここから不安や心配はかかえつつ、あえて夫にその真実を聞き出せない妻の微妙な心境や、
夫に対するやさしさがうかがえます。
あと私が気になったのは、家族3人での食事はほとんどなかったということです。
父は仕事で朝早く帰宅も遅いから仕方がないとはいえ、これが家族間の交流が薄いということや
コミュニケーションが欠落している原因のひとつではないかとも思います。
食事は家族の団らんの重要な一つです。家族のメンバーにいろいろな会話を提供したり、
安らぎを感じたりできる場だと思うからです。
ライフサイクルについて
夫のライフサイクルをふり返ってみると、28歳で結婚、30歳で子ども(娘)の誕生、
そして生活や仕事が安定し余裕ができてきた40歳で家を購入。
このような①結婚、②出産、③マイホームという人生の大きな段階を順調に歩んできています。
これは理想の人生であるといえるでしょう。
しかし、そのすべてを達成した後、何か満たされない気持ちが夫の中に生まれました。
やはりそれは家庭内での満足・しあわせではないでしょうか。
妻や娘に不満はないと言っていましたが、やはり正直なところ
もっと家族ネットワークがほしかったのではないかと感じます。
「父」として、「夫」としては家庭内での孤立を感じていたのかもしれないですね。
最後に、この家族の中で夫婦を結びつける重要なキーパーソンとなっていたのは、娘だと思います。
長年寄り添ううちに夫婦間には見えない壁、すれ違いができてしまっていました。
しかし娘はその仲をうまくとりもっていたのではないかと思います。
そのため夫は妻の、妻は夫の愛情を改めて確認できたと同時に、ぎこちなさを解消できたのではないでしょうか。
ここから、娘は夫婦をつなぐ大切なかけはしのような役割を果たしていたと思います。
まとめ
まとめてみると、この家族の問題点は、家族間の交流が少なすぎること、
夫婦関係が希薄になっていたという二点にあると考えます。
課題としてはもっと家族内で積極的にコミュニケーションをはかることが一点、
そして夫と妻の面と向かった交流、もう一度夫婦としてのあり方を見直すことが二点。
これらの課題は、食事を家族みんなで楽しんだり、団らんをする時間をもつことで対処できるのではないでしょうか。
そうすれば家族は安らぎの場となり、家族の構成員一人一人が満足できる家庭が生まれると私は思います。
次に夫婦間の課題については、長年連れ添ってきて情熱や愛情が萎える時期はありますが、
お互いがお互いを支えあって家族が成り立っているのだということを認識すること、
そして各々の役割を尊重しあうこと、素直な気持ちを伝えることで解決できるのではないでしょうか。
夫婦の絆、そして家族の絆がより深まることで、
この家族は今後もっといい方向に発展していくのではないかと感じました。
ちなみに私は共働きなので、家事は役割分担しています。
私の方が仕事が終わるのが遅いので、よく食事の準備をしてくれます。
(息子もよくお手伝いしてくれるので助かります)
私も、夫や息子に感謝をきちんと伝えないとな、と思います。